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和紙のことを知る
和紙とは何なのか。実は和紙一筋70年の問屋でも回答が難しいのです・・・
どうも、大上です。
このお仕事をしていると、「そもそも、和紙とは何なんですか?ほかの紙と何が違うんですか?」 とよく聞かれます。 実はこれ、誰もが聞くことなのですが、業界には明確な回答がないんです。
私はいつも、「長い繊維をそのまま生かすための漉き方をした、日本の和紙メーカーさんが生み出したもの」 という風に答えています。
でも、この回答って穴だらけだと思いませんか?? 長さってどれくらい?そもそも和紙メーカーさんの定義は?海外でやっちゃダメなの? 繊維はなんでもいいの?手漉き、機械抄きの区別は? ・・・
ごもっともです(笑)
この回答にいきつく考えを、順番に記していきます。
・そもそもなぜわかりにくいのか、現在の和紙流通の状況から
・和紙の語源
・和服を例に、今の和紙の状況をご説明
・大切なのは、伝統文化
・源流を知っておくことが大事
そもそもなぜわかりにくいのか、現在の和紙流通の状況から
‘’ミツマタ・コウゾ・ガンピなどの靭皮 (じんぴ) 繊維を原料として、手漉 (す) きで作る日本古来の紙。強靭で変質しにくく、墨書きに適する。 美濃紙・鳥の子紙・奉書紙など。俗には、和紙に似せてパルプ・マニラ麻などを機械で漉いた洋紙も含めていうことがある。日本紙。わがみ。’’
(出典:goo辞書)
和紙を辞書で検索してみると、上記のように記載されています。
靭皮繊維を用いた手漉きの紙が「正式な和紙」で、そのほか「俗なるもの」があるという認識です。 誰からも文句を言われない「和紙」の定義は、まさしくこの辞書のとおりですし、私もそう思います。
しかし、うるわし運営会社である和紙の問屋オオウエの扱うものは、その95%以上が、「俗なるもの」に入ります。 例えば、百貨店に行っても、高級和雑貨店さんに行っても、いわゆる「正式な和紙」は、数パーセントにとどまります。
この定義をもってして、和紙とは靭皮繊維で手漉き、としてしまいますと、日本の和紙の流通のほとんどは偽物ということになり、 産業そのものが壊滅してしまいます。
また、では靭皮繊維を使って手漉きをした、タイや韓国その他の国の紙のことはなんといえばいいのでしょうか。 それらは正当な和紙で、日本の機械抄きは偽物なのでしょうか。 逆に機械で抄いて、パルプを使って、日本で抄いているものが和紙と捉えてしまうと、日本製紙や大王製紙など、洋紙メーカーの紙も同じカテゴリーに入ってしまいます。
でも、それも違いますよね。 このあたりの、定義と現在の流通の食い違いが、和紙とは何かをわかりにくくしている要因です。
和紙の語源から和紙とは何かを 考える
そもそも和紙という言葉は、明治以降にできたものです。
それまでは、「紙」と呼んでおりました。 考えてみれば当然で、「和紙」というのは西洋から入ってきたものと区別をするために生まれた概念なのです。
となると、やはりgoo辞書にもあるような定義が、「そもそも日本で抄かれていた紙」と言えそうです。
しかし、仮に江戸時代に機械が発展していたならば、江戸時代の人たちは機械を取り入れたでしょう。 時間軸だけで区切ってしまうやり方は、技術の進歩などをあまりにないがしろにしてしまいます。 おそらく、奈良時代と平安時代では紙の漉き方は違っただろうし、江戸時代と平成の作り方は違って当然です。
和紙の特性、洋紙の特性から考えてみる
和紙がほかの紙と違う点として、「楮・ミツマタ・ガンピ」を使っていたという点があげられます。
これらは、洋紙の原料に比べて長く、それを丁寧にゆすることによって繊維同士の絡みを強めることでシートにしています。 これにより、薄くても強靭であるという特性がもたらされました。 同時に、絡めるということは、繊維と繊維の間に微細な隙間が出来ることになります。 これが、墨のノリを良くしたり、空気を給排出する障子の役目や、灯りが漏れ出すランプシェードの役目を果たす要因です。 温かみがある、生きている、と言われるのもこの特性が原因です。
現在ではパルプを使った和紙作りも大変多いですが、パルプの中でも比較的繊維の長いものを用いて、上記のような状態を作り出しています。
洋紙の場合は逆で、短い繊維をシート状に固めることによって、隙間をなくすように作ります。 隙間があると、インクが抜けてしまい、印刷のにじみになるからです。 和紙は印刷用途では本来なかったので、印刷するためには目を詰めてあげるような加工を施します。
大切なのは伝統文化
これまでのお話を少しまとめると、「日本で作られていて」、「長い繊維を絡めて」いるものが、 和紙とは、という回答の一部になりそうです。
私はここに、日本の和紙作りの生産者たちの思いを付与したいと思っております。 もともと機械抄き和紙というのは、そのほとんどがルーツを手漉き和紙に持っています。
時代が変わり、大量生産を余儀なくされる中で、和紙だけが昔のままの作り方で取り残されていくのが、 我慢ならなかったんです。もちろん、従業員を食べさせていくためでもあります。 和紙を使ってきたという伝統的な文化を継承、発展させよう。そういう想いで「和紙メーカー」を名乗っている人たちの抄く紙を、 私は和紙と呼びたいと思っています。
なので、それが海外であろうが大手メーカーであろうが、「和紙」をきちんとつないでいこうと思っているのであれば、 それは「和紙」なのである、ということもできます。 弊社は国内メーカーしか扱いがありませんが、タイには機械抄きで和紙を漉く工場があるそうです。 ただ似ているものを、儲かりそうだからという理由で和紙を漉いているとしたら、認めたくありません。 しかし、タイの方が日本の文化である和紙に思い入れを持って、その発展を願うならば、認める必要もありそうです。
源流を知っておくことが大事
弊社の扱いのほとんどが機械抄き和紙であるがために、少し機械に拠った話になりすぎてしまいました。 辞書にも出ている、「靭皮繊維を手で漉いたもの」という「本来の和紙」そのものが尊いことは、言うまでもありません。 いわば、今世の中に出ている和紙のお父さんのような存在なのです。
先ほど、和紙の伝統的な文化を継承、発展させようというメーカーこそが、と書きましたが、それはひとえに「手漉き和紙」を知る、ということでもあります。 もう少し踏み込んで、手漉きの和紙を使ってみたいという人が一人でも増えるように、機械抄きの和紙を発展、普及していくことが、 私の役目だと思っております。
まとめ
「和紙とは何ですか」という、本当に簡単な質問に対して考えることを書いてみました。 なんとまあ、ややこしく、まどろっこしいことか、とお思いでしょう(笑) でも、愚直にこういったことを考えながら、その時代時代の解釈を付け加えていくことが、伝統産業にとって大事なことなのでは、と考えています。
長い繊維を大事にした機械抄き和紙
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